視神経乳頭陥凹拡大とは
健康診断や人間ドックなどの眼底検査で、視神経乳頭陥凹拡大(ししんけいにゅうとうかんおうかくだい)と判定されることがあります。
網膜で受けた光の情報を脳へ伝達する神経を視神経と言い、網膜から集まったたくさんの視神経線維は視神経乳頭と呼ばれる場所で束になって折れ曲がって、脳に向かいます。この折れ曲がりがあるため、視神経乳頭の中央はへこんでいて、このへこみを視神経乳頭陥凹(陥凹)と呼んでいます。
たくさんの視神経があると陥凹はその厚みで小さいですが、視神経が傷つき、数が減るにつれて陥凹は大きく広がります(陥凹拡大)。視神経乳頭の大きさと比べて①陥凹の大きさが70%を超えるか、②陥凹との間の視神経の部分が10%より少ない場合、視神経乳頭陥凹拡大と判定されます。
視神経乳頭陥凹拡大と緑内障
視神経乳頭陥凹拡大がおこる代表的な病気に、緑内障があります。
緑内障は、視神経が眼圧にたえられなくなって傷つきその数が減っていく病気で、視神経乳頭の陥凹が大きく広がってきます。視神経は再生しないので、大きくなった陥凹が元に戻ることはありません。治療せずに放っておくと、更に視神経の数が減り、視野に見えない範囲があらわれ、増えていきます。自覚症状がなくとも、視神経乳頭陥凹拡大と判定された場合は眼科を受診し、精密な検査を受けることが大切です。
当院では、目の全体の状態を検査した後、OCT検査や視野検査を行って緑内障かどうかをくわしく検査します。
OCT検査は最新の眼底検査の1つで、視野に異常がない段階でも、緑内障で一番早くあらわれる眼底の変化を見つけることができる検査です。
図3:OCT検査(視神経乳頭の形状解析結果)
正常 | 緑内障 |
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赤色が神経線維層が薄くなった部分 |
正常 |
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緑内障 |
赤色が神経線維層が薄くなった部分 |
病気ではない視神経乳頭陥凹拡大とは
健康診断などで「視神経乳頭陥凹拡大」と判定されることがありますが、これが全て緑内障の可能性を示すわけではありません。生まれつき視神経乳頭陥凹が大きいタイプの方もいらっしゃいます。病気ではないため、治療は必要ありません。
視神経乳頭のサイズは個人差が大きく、0.8~4.5mm²に及びます。一般的に視神経の数は約120万本なので、視神経乳頭が大きければ(脳へ向かう出口が広ければ)、視神経の集まりもゆるやかになり、陥凹の大きさも大きくなります。自分では判別できないので、眼科を受診し、詳しい検査をすることが大切です。
視神経乳頭陥凹の検査
眼圧検査
目の圧力を測定する検査です。
眼圧の正常値は10mmHg~21mmHgとされています。この範囲を超える高眼圧の方は緑内障の可能性が疑われます。しかし、眼圧が正常範囲内であっても視神経が傷つき視野が欠ける正常眼圧緑内障があり、これが日本における緑内障の約70%を占めています。
視野検査
見える範囲を測定する検査です。
静的視野検査で緑内障特有の視野異常を検出します。
図4:視野検査
正常 | 緑内障 |
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正常の中心24度の視野(右眼) 黒い部分が見えない部分。正常でも真ん中の少し外側に見えない点(盲点)があります。 |
緑内障の視野の一例(左眼) 見えない範囲がこの程度まであっても自覚症状がない場合がほとんどです。 |
正常 |
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正常の中心24度の視野(右眼) 黒い部分が見えない部分。正常でも真ん中の少し外側に見えない点(盲点)があります。 |
緑内障 |
緑内障の視野の一例(左眼) 見えない範囲がこの程度まであっても自覚症状がない場合がほとんどです。 |
光干渉断層計(OCT)
視神経乳頭の神経線繊維層の厚みを測定する検査です。
緑内障の進行に伴い網膜が薄くなるため、網膜の厚さをOCTで測定し診断します。視神経乳頭周囲と黄斑部で測定します。
眼底検査
検眼鏡での診察、広角眼底カメラ撮影などで網膜、視神経を検査します。
緑内障以外の病気が疑われる視神経乳頭陥凹拡大
視神経乳頭陥凹が拡大する病気には、緑内障以外に、強度近視、上方視神経乳頭部分低形成、視神経乳頭小窩、視神経萎縮などがあります。眼科を受診し、くわしい検査をすることが大切です。
強度近視
近視の度が強い方(強度近視)の眼球は、前後に伸びた形をしています。その結果、網膜も引きのばされ、薄くなっているので、視神経乳頭の形に異常が生じやすいのです。また、強度近視は、緑内障になりやすいとされているため、定期的に眼科を受診し、経過を見ることが大切です。
上方視神経乳頭部分低形成(SSOH)
先天的に上方の視神経の数が少ないため、視神経乳頭の陥凹が大きく見える病気で、通常は進行しません。
しかし、緑内障を合併することもあるので、定期的に検査を受けることが大切です。
図5:眼底検査、視野検査、OCT検査結果
視神経乳頭小窩
先天的に視神経乳頭に小さなくぼみ(小窩)があり、そのために視野に異常がある病気ですが、進行しません。しかし、このくぼみが原因で、黄斑部(ものを見るのに重要な働きをする部分)の網膜剥離や黄斑円孔を合併することもあるので、定期的な検査が重要です。
図6:眼底検査、OCT検査結果
視神経萎縮
視神経の炎症や外傷、網膜中心静脈閉塞症、網膜静脈分枝閉塞症など様々な原因で視神経や視神経の細胞が、長い年月の間に傷つき、弱ってしまうと、視神経の数が減って視神経乳頭が白っぽく見えるようになります。減ってしまった神経を元に戻すことはできないため、できるだけ早く病気を発見し、原因を突き止め、進行を防ぐことが大切です。
図7:外傷性視神経症の慢性期の視神経萎縮
図8:網膜中心静脈閉塞症による視神経萎縮
視神経乳頭陥凹拡大のよくある質問(Q&A)
視神経乳頭陥凹拡大は治りますか?
視神経が一度損傷を受けると元に戻ることはありません。そのため、視神経乳頭陥凹拡大は治りません。治療によって進行を遅らせ、これ以上陥凹を拡大させないことが大切です。緑内障が原因の場合は、緑内障の治療によって病気の進行を抑えることが目標となります。
視神経乳頭陥凹拡大と診断されたら何科を受診すればいいですか?
医療機関を選ぶ際の注意点も教えてください。
視神経乳頭陥凹拡大と診断された場合は、まず眼科を受診してください。特に、緑内障の専門医がいる眼科医療機関を選ぶことが重要です。医療機関を選ぶ際には、緑内障や視神経疾患に関する治療経験が豊富な施設や、後眼部OCTなど最新の診断機器を備えているクリニックを選ぶと良いでしょう。また、定期的なフォローアップが必要なため、通いやすい場所にあるクリニックを選ぶことも大切です。
視神経乳頭陥凹拡大は放置するとどうなりますか?
放置しても問題ない視神経乳頭陥凹拡大なのか、治療が必要な視神経乳頭陥凹拡大なのかは眼科で詳しい検査をしないとわかりません。視神経乳頭陥凹拡大が起こる代表的な病気に緑内障がありますが、放置すると視神経の損傷が進行し、視野の異常があらわれ、最終的には失明に至るリスクがあります。必ず適切な診察と治療を受けることが必要です。
視神経乳頭陥凹拡大に自覚症状はありますか?
視神経乳頭陥凹拡大自体、自覚症状がない場合が多いです。代表的な病気である緑内障も早期では自覚症状がほとんどないため、病気であることに気がつかないまま過ごしてしまうことが多いのです。徐々に視神経の損傷が進み、視野の一部が欠けるなどの視野異常がおこってしまったら、視野が元に戻ることはありません。視神経乳頭陥凹拡大を指摘されたならば、早目に眼科を受診して、適切な診察と治療を受けることが重要です。