緑内障外来担当医
専門外来名 | 担当医 | |
---|---|---|
緑内障外来 | 相原 一(※) | 東京大学 教授 |
本庄 恵(※) | 東京大学 准教授 |
※ 執刀医
担当医からのメッセージ
緑内障は特別な病気ではなく、年齢とともに多くの方がかかる目の病気です。失明する疾患と聞くと怖いイメージをもたれるかとおもいますが、殆どの緑内障はゆっくり進行するため、早期に発見し、適切に治療して進行抑制していくことが大切です。日本では眼圧が正常範囲内の正常眼圧緑内障が多いことから、眼圧だけでは見つけられないこともあり、眼科検診による早期発見、早期治療開始が重要です。また、進行した緑内障眼でも、あきらめずに治療に取り組むことで、生涯にわたる視機能維持を目指せる場合があります。緑内障治療は近年様々な選択肢が増えてきました。当院では最新の機器を用いて進行状況をきちんとフォローアップしながら、緑内障専門医が個々の患者さんの状況に応じた適切な治療を提案していきます。何か不安な点があれば、いつでも担当医にご相談ください。
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緑内障
緑内障は特別な珍しい病気ではありません。日本では40歳以上の20人に1人、60歳以上では10人に1人、80歳代では6人に1人が緑内障とされ、成人してからの失明原因の第1位です。(図1)
緑内障では眼圧やその他のストレスの影響で視神経が傷んで徐々に減っていき、視野が欠けていきます。年齢と共に有病率があがる病気なので、近年の人口の高齢化に伴い、緑内障患者さんは、特に高齢の年代でさらに増えていくと考えられます(図2)。また、近視が大きなリスクファクターと考えられていますが、現在日本をはじめアジア諸国では近視人口が右肩上がりに増えており、危惧されています。
失明率の高さの原因のひとつとして、緑内障は特別な自覚症状に乏しいため(図3)、約9割は診断を受けていない潜在患者さんだということです。いったん障害された視神経や視野は元には戻りません。欠けた視野は元に戻すことができず、治療が遅れると失明に至る場合もあります。
早期発見が非常に重要な疾患ですが、わが国では眼圧が正常範囲でも進行する正常眼圧緑内障が多く、眼圧値だけではみつけられないことがあります。早期に見つけるためには眼科での精密検診が必要です。
緑内障の症状
眼圧が急激に上昇すると眼の痛みや頭痛、充血などを伴うこともありますが、多くの緑内障では特別な自覚症状はありません。特にわが国に多い正常眼圧緑内障は進行が緩徐で、かなり進行するまで自覚症状に乏しいのが特徴です。
緑内障になると、最初は視野の一部が欠け、徐々に欠けた部分が増えて視野が狭くなります(図4)。急に暗闇やトンネルが出現するのではなく、初期は「一部分が少しかすむ」、中期には「もやが徐々に広がる」、後期になると「霧の中にいるようにぼんやりする」という見え方になります。
恐ろしいのは、緑内障による視野障害は自覚症状に乏しく、しかし進行するだけで回復はないことです(図5)。視野障害は多くの場合、周辺から徐々に進み、また反対の目や脳が視野を補完してくれるため、気が付きにくいという特徴があります。結果、片目が失明寸前でも緑内障に気づかないこともあります。
治療を行っても障害された視力、視野が改善することはないため、治療の目標は残っている視機能の悪化予防・維持になります(図6)。生涯にわたる緑内障の進行抑制が必要なため、緑内障治療はほぼ一生涯の長期にわたります。
緑内障の検査
眼圧検査、視野検査、眼底検査といった一般的な緑内障診療に必須の検査に加え、最新の光干渉断層計(OCT)を用いた検査も非常に重要です。OCTとは、非侵襲的に眼底に弱い赤外光を当て、その反射を解析することで前眼部や網膜の断層画像を得ることができる装置です。当院では最新式の前眼部OCTと後眼部OCT検査が可能です(図)。従来の検査では発見困難であった微細な変化をとらえることが可能で、前眼部OCTでは進行しやすい緑内障眼に特有の隅角の変化や術後の状態を精密に検査することができます。後眼部OCTでは、網膜や視神経を検査し、緑内障によって障害された視神経線維層と細胞層の異常や変化・進行をより早期に発見できます。視野検査で異常が出ていないごく早期の緑内障も発見できるため、積極的に検査を行っています。
眼圧検査には、空気眼圧計、ゴールドマン眼圧計、アイケア®といった複数の眼圧計があり、個々に合わせて最も信頼できる方法で眼圧測定を行っています。
視野はハンフリー視野検査により、視野障害の状態や、進行速度を判定します。継続した視野検査と進行解析によって、緑内障進行を解析し、治療方針を判断していくことができます。
緑内障のタイプ
緑内障には、隅角の開き具合と眼圧の高さによって、大きく分けて3つのタイプがあります。健康な状態では、隅角は開いており、眼圧は正常(20mmHg程度より低い)です。
(1)開放隅角(かいほうぐうかく)緑内障
隅角は開いていますが、眼圧が高い緑内障です。房水は、フィルターの働きをする線維柱帯(せんいちゅうたい)を通り目の外へ流れ出ますが、線維柱帯が目(め)詰(づ)まりを起こしています。その結果、房水が流れ出にくくなり、眼圧が上がって視神経がダメージを受けます。
(2)正常眼圧緑内障
隅角は開いていて眼圧も正常ですが、緑内障です。その方の視神経にとっては耐えられない高さの眼圧なので、視神経がダメージを受けてしまうと考えられています。日本人の緑内障の方は、ほとんどがこのタイプです。
(3)閉塞隅角緑内障
隅角が閉じていて、眼圧が高い緑内障です。徐々に隅角が閉じていき眼圧が高くなって視神経がダメージを受けるタイプ(慢性型)や、虹彩と水晶体がくっついたために房水の流れがせき止められ(瞳孔(どうこう)ブロック)、急激に眼圧が上がって視神経がダメージを受けるタイプ(急性型)などが代表的です。
緑内障の治療
緑内障は眼圧を十分に下降させることにより、多くの症例で進行を抑制できることがわかっています。緑内障には様々な病型があり、一般的な開放隅角緑内障では薬物による眼圧下降が基本になります。閉塞隅角緑内障ではレーザー治療や手術治療が選択されることもあります。
薬物治療
目薬による眼圧下降をはかります。目薬は通常1種類から始めますが、患者さんの状態に応じて2種類以上に増やしたりして治療していきます。患者さんが正しく点眼し、治療を継続してくれることが非常に重要です。
緑内障治療薬
緑内障を治療する目薬(緑内障点眼薬)には、たくさんの種類があります。いずれも眼圧を下げる薬ですが、その仕組みに違いがあります。仕組みの違う薬は一緒に使用することができますが、相性の悪い組み合わせもあります。また、効果、点眼回数、副作用などに違いがあり、緑内障や目の状態、他の病気にかかっているか等、総合的に判断して薬を決定します。
緑内障点眼薬はその働きから、目の外への流れ出る房水の量を増やす(房水流出促進)、または、作られる房水の量を減らす(房水産生抑制)2つのタイプに分けらますが、その他にこの2つのタイプの薬を合わせた配合剤があります。
(1)房水流出促進
房水が流れ出る通路にはぶどう膜強膜流出路と線維柱帯流出路があり、通路をそれぞれ広げることで房水流出を促進して眼圧を下げます。
ぶどう膜強膜流出路タイプ
- プロスタノイド受容体関連薬<FP受容体作動薬>
ラタノプロスト、トラボプロスト、タフルプロスト、ビマトプロスト - α(アルファ)1遮断薬
ブナゾシン
線維柱帯流出路タイプ
- 副交感神経作動薬
ピロカルピン - イオンチャンネル開口薬
イソプロピルウノプロストン - ROCK(ロック)阻害薬
リスパジル
ぶどう膜強膜流出路タイプ+線維柱帯流出路タイプ
- プロスタノイド受容体関連薬<EP2受容体作動薬>
オミデネパグ・イソプロピル(エイベリスⓇ)
(2)房水産生抑制
毛様体で作られる房水の量を減らして眼圧を下げます。
- β(ベータ)遮断(しゃだん)薬(やく)
チモロール、カルテオロール、ベタキソロール、レボブノロール - 炭酸脱水酵素阻害薬
ドルゾラミド、ブリンゾラミド
(3)房水産生抑制+房水流出促進
- α(アルファ)1β(ベータ)遮断薬
ニプラジロール - α(アルファ)2作動薬
ブリモニジン
(4)配合剤
点眼の負担を減らすために、(1)から(3)までのタイプの違う薬を2種類組み合わせて1本にした薬です。
ラタノプロスト+チモロール、ラタノプロスト+カルテオロール、トラボプロスト+チモロール、タフルプロスト+チモロール、ドルゾラミド+チモロール、ブリンゾラミド+チモロール、ブリモニジン+チモロール、ブリモニジン+ブリンゾラミド
手術治療
薬物治療で眼圧が十分に下がらない場合や、眼圧が下がっても視野障害が進行する場合には、レーザー・手術療法を検討します。レーザー線維柱帯形成術(SLT)、レーザー虹彩切開術(LI)などのレーザー治療、手術加療としては低侵襲緑内障手術MIGSと呼ばれる負担の小さい手術、濾過手術というしっかり眼圧を下降する手術、さらに近年様々なデバイスが進歩し、インプラント挿入術、プリザーフロマイクロシャントなど最新の術式まで様々な選択肢があります。当院では患者さんの病型、進行状況に合わせた最も適切な治療を選択します。
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緑内障手術は、眼圧をより低くすることによって視神経にかかる圧力を減らし、視野障害の進行を遅らせたり止めたりすることを目的としています。傷んだ視神経が元に戻ることはないため、手術で視力や視野が回復することはありませんが、生涯にわたって視野と視力を保つための重要な治療法の1つです。副作用などで目薬が使用できない場合や目薬で眼圧が下がらない場合に行います。レーザー照射により房水の排出を促進する手術や新たな房水流出路を作製する濾過手術、線維柱帯を切開し、Schlemm管への房水流出の促進する房水流出路再建術手術があります。手術の方法は緑内障のタイプや状態によって異なります。
レーザー手術
レーザー虹彩切開術(LI)
虹彩と水晶体が密着し房水の流れが止まる(瞳孔(どうこう)ブロック)場合と、たまった房水によって眼圧が急激に上がり、視神経に障害を与える場合があります。レーザー虹彩切開術は、レーザーで虹彩に穴をあけて房水の新しい通路を作る手術のことで、瞳孔ブロックの予防、または起きてしまった瞳孔ブロックを解除するための手術です。隅(ぐう)角(かく)が狭い方や閉塞(へいそく)隅(ぐう)角(かく)緑内障の方などが対象となります。
方法
レーザー手術の約1時間前に瞳を小さくする目薬を点眼します。瞳が小さくなることで、虹彩全体が薄く引き伸ばされ、レーザーで穴を開けやすい状態になります。次に、術後の一過性(いっかせい)の眼圧上昇を予防する目薬を点眼します。点眼麻酔をし、手術用のコンタクトレンズを付けてから、瞳から離れた場所の虹彩にレーザーで小さな穴をあけ、新しい房水の通路を作ります。
合併症
最大の合併症は水疱性角膜症です。術後の水疱性角膜症術前の角膜の状態と照射レーザーの総量が関係しているため、術前に角膜内皮の状態を調べ、レーザーの過剰照射に注意しながら実施します。
選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)
目の中で作られた房水は、フィルターの働きをする線維柱帯(せんいちゅうたい)を通り目の外へ流れ出ます。この線維柱帯が色素細胞(メラニン)によって目(め)詰(づ)まりを起こすと、房水の流れが悪くなり、眼圧が上昇します。線維柱帯自体や周辺組織にダメージを与えず、目詰まりの素であるメラニンだけを消滅させるレーザーを用います。メラニンだけを消滅させることができるので、術後しばらく経過し、再び眼圧が上がってきた場合に、前回と同じ場所にレーザーを当てて繰り返し治療ができるので、非常に優れた治療法と言えます。
方法
手術後の一過性の眼圧上昇を予防するための目薬を点眼します。点眼麻酔をし、手術用の隅角鏡を使用して線維柱帯の位置を確認しながらレーザーを照射します。
合併症
充血、かすみ、違和感などがありますが、軽症なことが多く、1週間程度で治る場合が多いです。前房出血の報告もありますが、まれです。
濾過手術
目の中(前房)から結膜の下に房水を排出する新しい通路を作る手術です。線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)や小さな金属製チューブを挿入するインプラント挿入手術があります。
線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)
日本を含め世界で最も多く行われている緑内障手術です。目の中(前房)から結膜の下の組織まで通じる通路(流水路)と、通路の先に濾(ろ)過(か)胞(ほう)と呼ばれる貯水池(ちょすいち)を作り、房水を前房から直接流して濾過胞にためます。濾過胞にたまった房水が、最終的に結膜の血管やリンパ管に吸収されることで眼圧が下降します。原発開放隅角緑内障をはじめ、大部分の緑内障の方が対象です。
方法
局所麻酔を目に注射します。結膜を部分的に切ってはがし、手術後に房水の流出量を調節するためのフタを強膜に作成します(強(きょう)膜(まく)弁(べん))。強膜弁の上下にマイトマイシンCという薬を塗り、作った通路が塞(ふさ)がらないように予防した後、強膜や虹彩や線維柱帯の一部を切り取り、流水路を作ります。強膜弁でフタをし、房水がしみ出る程度に数か所糸で縫い付けます。最後にはがした結膜を元に戻して縫い付け、濾過胞ができたことを確認します。線維柱帯切除術は術後、眼圧を調整することが必要です。眼圧が高い場合は糸を切って強膜弁の閉じ具合をゆるめ、眼圧が低い場合は追加で糸を縫い付けて強膜弁の閉じ具合をきつくします。
合併症
浅(せん)前房(ぜんぼう)、脈絡(みゃくらく)膜(まく)剥離(はくり)、悪性緑内障、白内障、濾過胞炎、眼内炎、眼圧上昇、術後の視力低下などが今までに報告されていますが、特に重篤(じゅうとく)な合併症は、術後数か月から数年経った後に起こる濾過胞からの晩期感染症です。手術を受けた方は、目を清潔に保つよう心掛け、何か異常があったらすぐに医師に相談してください。
インプラント挿入術(プレートのないチューブシャント手術)
線維柱帯切除術と似た手術で、目の中(前房)にエクスプレスⓇやプリザーフロ🄬マイクロシャントという小さなチューブを埋め込み、新しい流水路とします。線維柱帯切除術と比べて、流水路の大きさが一定であること、虹彩や線維柱帯の一部を切る必要がなくトラベクレクトミーに比べて簡便で手術による侵襲が小さい利点があります。隅角が閉塞している緑内障や眼炎症が強い方には使用できません。
方法
基本的には線維柱帯切除術と同じですが、流水路を作る代わりに、専用のチューブを強膜や結膜から前房へ埋め込みます。
合併症
線維柱帯切除術と同じですが、出血や炎症、低眼圧等の合併症が少ないと言われています。感染症を避けるため、手術を受けた方は、目を清潔に保つよう心掛けてください。
濾過胞(ろかほう)再建術(needle(ニードル)法)
線維柱帯切除術後に、房水でふくれた濾過胞ができず、眼圧が上昇してしまうことがあります。一般的には、眼球マッサージや強(きょう)膜(まく)弁(べん)を縫い付けた糸をレーザーで切って眼圧を調整しますが、それでも房水を十分にためた濾過胞ができず眼圧が下がらない場合は、ニードル(針)で濾過胞再建術を行います。
方法
目に麻酔を注射した後、結膜にニードルをさし込み、結膜と強膜の癒(ゆ)着(ちゃく)をはがします。更に強膜弁の癒着もニードルではがします。房水が強膜弁から漏れ出てくる状態を確認して針を抜き、結膜を縫い合わせて終了します。
合併症
前房出血、濾過胞炎、眼内炎、出血、低眼圧、脈絡(みゃくらく)膜(まく)剥離(はくり)、低眼圧黄斑症(おうはんしょう)、悪性緑内障、術後の視力低下などが報告されています。
房水流出路再建術手術
線維柱帯を切開してシュレム管への房水流出の促進を目的とする手術で、眼外法と眼内法があります。
低侵襲(ていしんしゅう)緑内障手術(MIGS(ミグス))
これまでの緑内障手術と比べ、目に負担の少ない緑内障手術の方法をまとめて低侵襲緑内障手術といいます。小さく切開して手術を行うので、手術時間が短い、合併症が少ない、術後の回復が早いなどの利点があります。低侵襲緑内障手術としてマイクロフックトラベクロトミー(眼内法)、トラベクトームⓇ、白内障手術併用の眼内ドレーンのiStent(アイステント)®という小さな器具を埋め込む手術があります。
線維柱帯切開術(マイクロフックトラベクロトミー・眼内法)
マイクロフックマイクロフックは、目詰まりを起こした線維柱帯を切るための細い金属製のデバイスです。従来のトラベクロトミー(眼外法)という術式は結膜や強膜を切開したあと、専用のデバイスで目の外側から線維柱帯を切るのに対して、マイクロフックトラベクロトミーはマイクロフックを使用し、目の内側から線維柱帯を直接確認しながら切るので、より安全で確実です。また、結膜、強膜を温存できます。
方法
局所麻酔を目に注射した後、角膜をごく小さく切開しマイクロフックを挿入するための入口を作ります。隅角鏡を角膜に当て線維柱帯をよく見ながら、刺し込んだマイクロフックで線維柱帯を切っていきます。
合併症
前房出血、一過性の眼圧上昇などがありますが、重篤(じゅうとく)な状態になる可能性は低いです。